父よ、スペインへはいつ行くのか。

旅行に行かない父

私の父(84歳)は、英語が得意らしい。

「らしい」というのは、いまだかつて父が外国人と英語で話しているのを聞いたことが無いからで、本当に話せるのか謎なのである。

父は、私が物心付いたときからずっと「ラジオ英会話」で英語の勉強をしていた。

一度ルーチンに決めたことはやらないと気が済まないタイプで、

風邪をひこうが外出した時であろうが、テープで録音しては勉強をしていた。

そんな父が、定年退職後辺りから「スペイン語」も始めた。

英語とスペイン語の二刀流。

「いつかスペイン旅行を楽しみたい」と、父は語った。

しかし、父は海外旅行どころか国内旅行にも行かない人で、

「本当に行くのかな~」と私は疑っていた。

父と出かけた記憶は、数えるほどしかない。

あれは私が子供の頃だったが、

どこに出かけたのかはすっかり忘れてしまったのだが父と都内のホテルに泊まり、

そこには夕食のサービスが無かったので、夜の街に出かけたことがあった。

父は「美味しい店を知っている」と、私と母をとあるお店に連れて行った。

そのとある店とは・・・・・、

吉〇家の牛丼だったのである。笑

母は父とは真逆で「ぱっと贅沢する」のが大好きな人で、

旅行先では美味しいものを食べるのが当たり前だった私。

そんな私は、「せっかくの家族旅行のディナーが吉〇」というのがショック過ぎて、

子供心にも、

「うちの父・・・・
ひょっとしてすごいケチなんじゃね?」

と察してしまったのであった。

祖父母の介護がある

まあ父のケチは置いておきますが。笑

(低予算の旅行を楽しまれる方たちを否定する意図はありません💦気に障ったらごめんなさい。)

父に旅行に行かない理由を尋ねると、

「旅行をすると、おじいちゃんとおばあちゃんに悪いから」

と、言うのだった。

祖父母は旅行が大嫌いな人たちだったから、結局父も出かけない。

私は不満だったが、やがて父のいない旅行に慣れてしまった。

この段階でもまだ私は、「父が旅行に出かけないのは、祖父母に遠慮しているからだ」と思っていた。

父は、とても両親に気を使う人だったから、

二人を置いて出かけることが、心配なのだろうと思った。

祖父母が介護が必要な状態になってからは、ますますその傾向は強まった。

そして何年かが過ぎ去った。

旅行が嫌い

今ではもう、祖父母は亡くなった。

私も嫁に行った。

父を縛るものはない。

自由だ。

英語とスペイン語のスキルを使って、自由に旅行に行けばいい。

しかし、この期に及んでも父は旅行にはいかないのである。笑

私もこの頃にはもう、うすうす、

父よ、あなたも祖父母と同じく旅行が嫌いだったのだね。笑

と、悟ったのだった。笑

だったら、なぜ「旅行に行かないのは祖父母に悪いから」とか、

「定年退職したらスペインに行く」だの「海外旅行に行く」だのと、嘘を付いたのか。

「海外旅行に行きたいけれど」「祖父母に気を使って行かない俺エライ」をやりたかったのかなとも思う。

本当はただ単に、旅行が嫌なだけなのに。

だったら初めからそう言ってくれればよかったのに。

そうしたら私も、父と一緒に旅行、なんて淡い夢見なかったのに。

・・・・だからね、若い頃から旅行に行っていない人は、

年取ってから旅行なんて無理なんでしょうね。

では、あの「英語の勉強」やら「スペイン語の勉強」は何が目的だったのさ?って思うよね。

使わないスキルを、なぜに一生懸命学んでいたのさ。

・・・・・父は、大きな声で英語のテキストを読む。

子供の頃から私は気付いていたが、

父は、私が父の前にいるときだけ大きい声で英語の発音の勉強をし、

私がいなくなると黙る。

・・・・つまりそういうことだ。

語学の勉強は、

「俺、頑張っているぜ。褒めて♥」アピールだったんじゃないのかな。(;´∀`)

なぜそんなアピールを、おじいさんになった今でもするのか・・・・。

祖父母は昔、貧しくて学問もなくて生活にはそうとう苦労したらしい。

その祖父母にとって賢い父は、自慢の息子であった。

苦学生だった父はお金が無かったから、近所の教会に行って英語を学んだらしい。

そして、大学に進学したのだった。

きっと父は、その時の「勤勉な自分」が誇りで、そのイメージをずっと守りたいんじゃないのかな。

だから、父は英語とスペイン語の勉強をする。

多分、今後一生使わないものを。

「時間の無駄じゃね?」

祖父母、亡くなったし。

それに、娘である私はいろいろ性格が屈折しているもんで、なかなか父を褒めないのだよ。笑

・・・・・とは言えないけれど。

勤勉をこじらせるのも、いろいろ大変なのである。笑

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